[’05/11/01]ここに来てから仕事を作ります
今回は、毎回私たちの医院に訪れる技工所の営業マンの話です。
私たちの医院ではほぼ毎日、4つの技工所が訪れます。彼らは毎日、患者様の予約に合うように詰め物やかぶせ、または入れ歯などを届けてくれます。また、新たに取ったお口の型を持ち帰ります。
4件もの技工所に毎日の来て頂く理由は、それぞれに技工所の長所、特性を生かし、
技工物を振り分けているからです。
その一つの技工所の作製物が最近気になっていました。
ひと言で言えば思いが入っていない。
型取りは、治療でいえば最終段階です。あとは私の思い通りのもの、期待する精度のものが出来れば、
お口の中にセットして治療完了。
「ここまで頑張って来院して頂いて、本当に有難うございます。あとは今のあなたの最高の状態を
このままずっと維持しましょうね。」とお話するだけ。
しかし、ある技工所の完成品がどうも私の気持ちを逆なでするのです。ただ単に納期に合わせて作った
だけ、流れ作業で作っただけ、そう感じられたのです。確かに、手を抜いて作ったものではないことは
理解できます。お口の中ではピッタリ治まります。
しかしハートが入っていないのです。
作り手の顔が、見えないのです。
歯型を通じて患者様のお顔を想像していないのです。(チョッと無理がありますが)
少し曖昧な言い方ですが、そこまで考えればこんな形には絶対にならない、本当の意味で喜んで頂けないと思うことがありました。
そのため、ある日営業マンに「年内は取り引きしない」と明言してしまいまいた。
今回の話のメインは、ここからです。
そのことを告げると、普通の営業マンは例えば上司を連れて来て、
「申し訳ありませんでした。以後、気を付けます。」
と詫びるかもしれません。
しかし、彼はそんな通り一ペンのことはしません。
もちろん、媚びることもしません。
私がそんな事を期待しているのではないことを、今までの付き合いの中から 知っているからです。
では彼が何をしたのか。
その答えは、『何もしなかった』のです。
正確に言えば、いつもと同じように私たちの医院を訪れたのです。
そして、いつもと同じように技工カウンターが石膏で汚れていれば、清掃をします。
印象材(形を取る材料)が流しに付着していれば、きれいに取り除きます。
以前と全く同じように、笑顔のあいさつと共に来て、笑顔のあいさつと共に帰ります。
違うのは、届ける商品を持たずに来る、注文された商品がなく帰ることだけ。
それが2週間、当り前のように続きました。
そして今日、久しぶりに声を掛けてみました。
「いつも仕事出してないのに、来て頂いて有難う。」
そして、返ってきた驚きの言葉。
「今までも、仕事が出ているから来ていたんじゃないんです。」
「来てから仕事を作るんです。」
あまりに予想外のことなので、私はその言葉を聞いて鳥肌が立ちました。
「それって、どこで学んだんですか。」
そして、その答えは。
「先生が、いつも言ってるじゃないですか。」
そうなんです。私は以前、出来る営業マンになる秘訣を、彼にお教えしたことがありました。
その中で、彼なりに解釈し、そして実践していたのでした。
しかし、この2週間の行為はただ単に出来る営業マンに見られたいという、下心からでは決してありません。自然とその考えが身に付き、行っていた行為です。
本当に目からウロコの体験でした。
仕事は与えられるものではない、作り出すもの、見つけるものであることを、身にしみて彼に教わりました。思いがけないアクシデントや、不測の事態、そんな予想外の出来事に出会った時こそ、その人の真価が問われます。
私自身の人間としての見識の甘さ、リーダーとしての未熟さを思い知らされました。
決して忘れることの出来ない1日となりました。
目を覚まさして頂いた 寄田幸司